50中期経営計画ではROE(自己資本利益率)のみを指標としていたのですが、2021年度からの中期経営計画では社内向けにROICを導入し、資本コスト以上の利益を出すという感覚を養ってもらうようにしました。光定:髙岡さんのご指摘から社内でも問題意識が高まり、投資審査委員会が発足しました。従来から一定金額以上の投資案件については計画期間内で回収できるのかチェックをしていましたが、執行側の所見ではかなり甘い数字が出てくるので、投資審査委員会が客観的な目で厳しくチェックして、蓋然性を評価するようにしました。お金の使い方が変わるということは会社の考え方が変わることを意味します。投資審査委員会ができたことは非常に大きな変化だと思います。私が特に気になるのは光定:PBR(株価純資産倍率)1倍を割る企業がTOPIXの半数以上に上ると東証の指摘がありましたが、これもまさに、資本収益性や成長性に課題がある企業が非常に多いということです。共同印刷もなるべく早く、より明確な成長戦略を打ち出し、収益性改善に取り組んでいることを社内外に示さなければなりません。新規事業が社内から立ち上がるのに時間がかかるのであれば、他社から買ってでも自社の事業の中に取り組んでいく、それによって中計を達成するといった方法も考えなければなりません。先ほど内藤さんがおっしゃった、「できない」と思っていることをやる、ということかもしれませんね。内藤:TOMOWELというコーポレートブランドで、具体的に何の事業をやりたいのか、そこを明確にしないといけません。まず、明確な目標があるからこそ、どういう人材を確保し、育成していけば良いかがわかる、どういう事業を買収すれば良いかも見えてきます。髙岡:そうですね。定例の取締役会では会社法上の規定による決議事項等がたくさんあるので、ゆっくり時間をとって中長期的な視点で議論をしていこうと、定例とは別に第一回目の長期ビジョンに関する会議をスタートしました。そもそも事業を通既存事業の部分で、新しい仕事をとってくるには既存事業であってもROA(総資産利益率)が高くなるような設備の入れ替えが必要です。しかし、既存の事業だから今まで通りという感覚があり、それがROAを改善できない原因にもなっています。そこについては今後、議論が必要だと思います。内藤:私が以前いた会社では部門ごとにROICを出して、それが低い部門より高い部門に投資すべきだと予算を取り合い、喧々諤々と議論していました。そういうアロケーションに対する議論が活発になって然るべきです。髙岡:そういう議論が今後の日本企業の事業ポートフォリオマネジメントとも関わってくると思います。 日本企業はこれまで内部留保を貯め込み、貯金があるからと資本コストを考えずに経営をしてきた側面があります。イノベーションが進まず新規の投資先が見つからないことと裏表です。そして、資本効率が悪いはずの既存事業の設備更新に大きなお金を使ってしまい、その結果、資本コスト以上の収益性が上がらないというジレンマに陥っている企業もあるでしょう。しかし、これからはそうはいきません。欧州もアメリカも金利が上昇していますから、海外の投資家からすれば、リターンの悪い投資を続けている日本企業には投資できない、そういう時代に入っています。そして、日本も次第に金利が上がるでしょうから、借入のコストも上がりますし、国内の株主からしても成長が見込めない株よりも銀行に預けた方がまし、となるかもしれません。今がまさに日本企業の正念場だと思います。して社会に何を貢献していきたいのか、そこをまず明確にしないとなりません。長期ビジョンが決まって初めて、目指す事業ポートフォリオが明確になり、中期経営計画の中身が決まって、具体的な投資が決まる、それらをまた新たにつくり直すべき時期が来たと感じますね。 日本は人口減少局面に入ったので、人材不足、働き手不足はますます深刻になりますから、人材戦略と人的資本への投資が理念/目次トップメッセージ価値創造社外取締役座談会長期ビジョンを明確にし、投資戦略と人材戦略へ落とし込む
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