共同印刷の価値創造 1

コア技術×知財戦略が、パッケージのサステナブルな成長を支える

産業と技術革新の基礎をつくろう
つくる責任 つかう責任

高木 伸浩

生活・産業資材事業本部
事業企画部 部長

佐々木 雄一

技術開発本部
環境技術開発部 部長

近藤 慎一

法務部
知的財産課 課長

企業が持続的な価値向上を実現するには、サステナビリティと成長性を両立し、社会的価値を創造し続けることが求められます。それには、さまざまな社会課題に事業の本筋で向き合っていくにはどうすべきかを組織として考え、掲げた方針を確実に実行していかなければなりません。今回は、パッケージ分野にフォーカスし、社会課題と事業戦略、今後の成長に欠かせない取り組みについて当社のキーマン3名に意見を交わしてもらいました。

消費者の暮らしや社会の課題に密着したパッケージ、包装材事業

技術開発本部 環境技術開発部 部長 佐々木 雄一

高木:私たち生活・産業資材事業本部は商品パッケージなどの包装材が主力で消費者の生活に密着しており、環境や暮らしの嗜好、意識に対して影響力を与える分野なので、今回のテーマに親和性の高い部門だと認識しています。例えば、食品や医薬品の包装材などは人の安心・安全に関わっていますし、産業資材も含め非常に幅広い業界に供給しているので、企業が直面する環境問題と密接に関わっている事業です。

佐々木:環境技術開発部は技術開発本部内に新設された環境技術の専門部署で、全社の環境に配慮したものづくりの推進がミッションです。生活・産業資材事業本部とは今後、接点が増え続けていくと思います。

近藤:法務部では「企業価値向上にフルコミットする法務」を方針として掲げており、その中で私は知的財産課を運営しています。具体的には、まず製品を新しく作っていく際に他社の特許を侵害しないよう確認する特許調査を行います。次に、開発の過程で、他社との差別化ができる技術や意匠を権利化していきます。当グループはコンテンツを扱う情報系事業も大きなウエイトを占めていますので、著作権とは切っては切れない関係にあり、そういった相談にも対応しています。

行きつくところはサーキュラーエコノミー。先を予測した開発と知財戦略がチャンスを切り拓く

高木:包装材分野の課題としてまず挙げられるのは、省プラスチックですね。消費者の関心や企業からの要求で、非常に注目されてきているので、私たちも「こういった包材ならプラスチックが○○%減できます」といった提案を積極的に行っています。また、包材の素材を単一にするモノマテリアルという考え方が、ヨーロッパでかなり先行していて、日本も追随する形になりつつあります。しかし、包装材の第一義的役割は「内容物の保護」なので、プラスチック容器の厚みを薄くしたり、素材を紙に変えたりしたりすることで保存性が下がり、食品のライフサイクルが短くなると今度はフードロスが問題になったりもします。それに加えて、お客さまの工場での生産適性など、あらゆる課題をクリアしていくことは簡単ではありません。

佐々木:今年6月に可決されたプラ資源循環に関する新法は、プラスチックの「3R+Renewable(リニューアブル)」を基本方針としてサーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行を加速するというものです。高木さんが言うように、リデュース(材料を減らす)は製品によってはかなりハードルが高いですよね。リニューアブル(素材代替)では、バイオマスプラスチックに置き換えるという方法がありますが、バイオマス樹脂は種類が限られていますから、どういう形状で使うか、何と組み合わせるかが重要になってきます。社会全体としてサーキュラーエコノミーをめざすなら、使い捨てをやめて、リサイクル化を考える必要があります。パッケージがお店を通じて消費者に渡り、それを回収し、再資源化したリサイクル材料を使って、再びパッケージとして出荷する。それが、今後包装材メーカーに課せられる最大の課題になっていくと思います。我々も、どのように包装材を設計していくか、あるいは、回収の仕組みにも関わっていきながら、サーキュラーエコノミーの担い手になっていくことを考えなければいけません。現状では、リサイクルの衛生面の問題や回収の仕組みなど、技術課題は非常に多く、取り組まなければならないことが山積みです。

高木:もう一つ、政府が2050年カーボンニュートラルの目標を発表したことにより、この一年ほどでがらりと社会の認識が変わったのが気候変動問題で、これについても課題が多い。製品ライフサイクルでCO₂の排出を実質ゼロにするというのは、本当に高いハードルです。環境性能は高いが汎用性は低い材料を採用し、製造工程でも環境負荷を下げるとなると、コストは当然高くなります。そうなると結果として行きつくのはリサイクルなのかなと。パッケージというのはほとんどが捨てられ、ゴミになるものです。それをリサイクルするとなると、製品を送り出す動脈、回収する静脈の両方に物流の環境負荷とコストもかかる。早く、それらの課題に取り組んでいかなければと思っています。

生活・産業資材事業本部 事業企画部 部長 高木 伸浩

佐々木:そうですね。将来を予測して、我々がどういったものづくりをしていくかを考え、そこからバックキャストをしてどう包装材の設計に反映していくかが非常に重要です。

近藤:環境はもちろん、大きな社会課題の解決に貢献することは、いずれ新規事業につながっていくだろうと私は思っています。その点でSDGsというのは非常に重要なポイントになります。新規事業は全社的に取り組んでいますし、当課としても重点的にサポートするべく、取り組みを行っています。実は、特許を見ると、他の会社が何をやろうとしているかがかなり見えてきます。企業のニュースリリースや展示会などでわかることもありますが、そこでは見えないようなことが特許から結構わかる場合が多いのです。例えば、この会社はバイオプラスチックに非常に強みを持っているとか、この会社は生分解性樹脂メーカーでどの会社と組んでパッケージをつくっているかとか。私たちはそれらを分析して、技術開発本部に提供し、当社の開発の方向性を定める手伝いをしていく活動を始めています。

佐々木:我々も知的財産課が提供してくれる情報を、今後どういうテーマをやるべきか、どういうスケジュールを組むべきかという判断材料にしています。

近藤:一方で、開発したものはしっかりと権利化していかないと、他社にすぐに真似されてチャンスを失うことになります。そこは、開発工程の川上から連携して、抜け目なく特許をしっかりと取っています。例えば、今、生活・産業資材の強化商品となっている「鮮度保持ボトル」や「ボトル代替包材」などは開発の初期から関わって早期に特許網を構築してきました。

高木:容器や包材は内容物の保護だけでなく「賞味期限を延ばす」役割があります。「鮮度保持ボトル」は、その視点から生まれた商品です。事業本部のメンバーも、サステナビリティに対する意識が非常に高まっていて、視野が広がってきました。先を予測することはとても重要ですね。リサイクルも分別や容器の洗浄など、消費者の手間が非常に大きいので、洗いやすい、分別しやすいといった開発の切り口も今後、大きなチャンスを生むと思います。

ボトルを傾けた際の意図しない吐出を抑止
内容物の酸化を抑え、鮮度保持するとともに、ボトルを傾けた際の意図しない吐出を抑止
自立するボトル容器
自立するボトル容器の代替包材。石油由来樹脂の使用量を削減

IPランドスケープで社会の未来と、自社の存在意義を広げていく

佐々木:先ほども触れましたが、カーボンニュートラルをめざしていくと、今のものづくりのプロセスから抜本的な転換に発展していく可能性は十分にあると思っています。例えば、デジタルプリントによって廃棄物が少なくなったり、インクの乾燥工程がなくなり熱エネルギーを使わずに済むとか、その設備がそもそもどういうものかを根本から考え、長期的な視点で設備投資を見直していく必要性があるのです。我々も、広い視野をもって、いろいろな製造工程を見るべきだと思っています。

近藤:そうですね。環境への対応は前提であり、さらにプラスアルファで何か魅力的な機能を付け加えないと、将来的には選ばれないのではないかと私は思っています。それにはまず、自分たちの武器は何なのかをしっかり把握する必要があります。そこでIPランドスケープという活動を開始しました。例えば、既存事業では、自分たちのやってきたこと、取得した特許から分析して、自分たちの強みは何か、それを支えるコア技術は何かを特定します。次に、他社の同じような分野の特許をすべて分析して自社との違いを対比させ、自分たちの強みはここ、他社の強みはここと特定していきます。これをマーケット情報と合わせて分析していくことで、当社の現在のポジションと今後どこに進んでいくべきなのかがおのずと見えてきます。これを事業戦略や経営戦略のために提言していくのがIPランドスケープという活動です。

高木:技術開発本部とは一年前からEco-TOMOWELプロジェクトに取り組んでいます。共同印刷って一体、環境に対応している会社なのだろうかというところから始まり、お二人の言う、めざすべきところを探ってきました。そのプロジェクトでいよいよ当社が資源を回していくサーキュラーエコノミーを考えていこうという議論が必要になってきました。当然、お二人の力も借りないとなりません。

佐々木:私の部署も発足時からEco-TOMOWELプロジェクトに関わって、具体的なアクションを起こしていかなければと思っていました。今、真っ先に取り組んでいるのが、プラ資源循環新法に関わる環境配慮型設計です。それは国からグリーン調達の認可といったインセンティブが受けられるなど、ビジネスチャンスにもなります。また、リサイクル設計についても検討を始めました。

法務部 知的財産課 課長 近藤 慎一

近藤:現在、当社の知的財産ポートフォリオのうち7割が産業資材分野です。これは情報コミュニケーション、情報セキュリティの分野が技術的に成熟しつつあり、特許が出にくいこともあるのですが、やはり、ものづくりとして活発な動きがあるのはパッケージ分野だということです。知財については、コーポレートガバナンスコードの改訂で、知財状況について情報開示が求められるようになりました。IPランドスケープや諸々の情報を整理、分析して報告していく活動を進めているところです。

佐々木:個々の環境配慮製品を売るだけでは収益の伸びに限界がありますが、製品開発の過程で多様な知見や、技術要素が得られます。そこで培った技術を次の事業展開や新たな技術領域につなげることが理想です。まさにIPランドスケープの活用ですね。

高木:先ほど、環境負荷を下げたらコストが跳ね上がるという話をしましたが、少し先の未来では、価格が高くても、温室効果ガス排出ゼロの製品なら市場に受け入れられるかもしれません。我々の事業は消費者に直結していますから、お客さまのスコープ3※に影響を与えられれば非常に大きな貢献になるわけです。

近藤:今回はサステナビリティをテーマに、主に生活・産業資材のお話をさせてもらっていますが、当社は124年という歴史の中で、パッケージはパッケージの世界、情報系は情報系の世界しか考えないというような少し縦割りの傾向があったと思います。しかし、環境をメインに技術開発をしていく過程で出てきたコア技術や強みの中に、情報系分野に適応し得るものも出てくると思います。これらを、知財を通して事業部門や経営層に伝えていくことで、事業部の垣根を越えた技術の広がりや事業の広がりが出てくるのではないかと思っています。それを広げていきたいというのが私が将来的に描いているところです。

佐々木:同感です。我々の開発技術も、視点を変えるだけでまるで違うものに変わっていくことがあります。多様なものの見方が新しい価値を生み出す原動力になると考えています。

高木:2021年度からの中期経営計画でも事業部門の垣根を越えてお互いのメニューをクロスセルしていく方向ですし、コア技術や人材が持つアイデアを出し合っていけば、新しい成長が実現できると思っています。

  • ※サプライチェーン上で発生する自社排出分以外の温室効果ガスの排出量

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